<研究>

迷走神経核形成機構に関する遺伝学的解析

 迷走神経は、鰓弓由来の横紋筋の運動支配と胸・腹部臓器の副交感性支配を行う混合性神経で、個体の生命維持に密接に関与する重要な脳神経です。ほ乳類ではその運動核は擬核と背側運動核の2つに分かれて、前者が咽頭や喉頭の横門筋の運動支配を、後者が心臓を含む胸腹部ほぼすべての臓器の副交感性支配を行っています。迷走神経核が正常に機能するには、その前駆細胞が誕生した場所から適切な位置に移動することが重要であると考えられます。例えば、わが国で乳幼児の死亡原因の第2位である乳幼児突然死症候群(SIDS)の患者で迷走神経核の前駆細胞の移動不全が報告されています。しかしながら現在、迷走神経の発生機構の詳細はほとんど明らかにされていません。

 ゼブラフィッシュにおいても、ほ乳類同様に迷走神経は2つの運動核を形成します。迷走神経を含む脳神経や脊髄の運動神経でGFPを発現するIslet-1-GFPトランスジェニック系統を観察すると、授精後2日で迷走神経核は菱脳節8番に背外側と腹内側の2つの細胞群として認められます。これら核の形成過程は、培養したゼブラフィッシュ後脳組織を用いることにより、ライブイメージングが可能です。我々は飽和的突然変異体スクリーニングにより、迷走神経核の形成過程に異常を示す変異体を網羅的に探索しました。その結果、前駆細胞が過剰に移動するものや、集合できないもの、途中で止まってしまうものなど、それぞれが核の形成過程の異なるステップに異常を示す興味深い変異体がたくさん単離されています。これら変異体の原因遺伝子を明らかにし、その解析を進めることで、迷走神経核形成機構の分子レベルでの総合的な理解につながることが期待されます。

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木下滋晴

<プロフィール>

和歌山県田辺市生まれ。好きなことは読書と体を動かすこと全般。特に自転車。

<目標>

迷走神経は脳神経の中でもっとも長い軸索を伸ばし、体幹部の内臓全般へと投射しています。その複雑な軸索走行からラテン語のvagus(迷走)という言葉があてられました。日本語では迷走神経と呼ばれます。迷走神経はその発生の分子機構がほとんど明らかではなく、始めた研究もどこからどのように手を付けるべきかずいぶん迷走しました。最近になってようやく目鼻が付いてきたというところです。苦しんだ分、愛着のある研究テーマになりました。我々があつかうゼブラフィッシュは発生のモデル生物ですが、大規模な遺伝学的解析ができるという大きなメリットがあります。この特徴を利用し、迷走神経の発生に関わる一個の分子、一個のカスケードというのではなく、その誕生から成熟までの全体像を遺伝子レベルで見通したいと思っています。